今年もついに,花粉症の季節がやってきましたね。わたしも,現在くしゃみの連発記録を更新中です。

  「日本中のスギをなくしてしまいたい!!」と思ったことがある人も少なくないのではないでしょうか?今回は,そんな方へ朗報です。スギの木をなくさなくても,スギ花粉が飛ばないようにすればいい――。2月発刊の『someone』01号でも簡単に触れている,花粉の少ないスギの新品種について詳しくみていきます。
 『someone』01号では,空に舞う花粉がわたしたちのもとに届くまでの道のりを書いています。こちらも,ぜひ読んでみてください。

■花粉症とは?

 花粉症はどのようにして起こるのでしょうか?はじめに,その仕組みを見ていきましょう。  わたしたちの体には,ウイルスや微生物などの異物である“抗原”が侵入すると,“抗体”というタンパク質が,それを認識し排除するしくみ「免疫系」が備わっています。
 そして,花粉症は、この異物を認識し排除するための仕組み「免疫系」が,花粉に対して過敏に反応してしまって起こる症状なのです。
 花粉症になると体内で花粉に含まれる抗原(アレルゲン)に対応する抗体「 IgE 」がつくられます。IgE は,体の中で免疫系の働きに関わる「マスト細胞」に結合する性質を持っているため,IgE はマスト細胞の表面に結合します。ここに花粉がやって来ると,マスト細胞に結合したIgE と花粉の抗原が反応し,マスト細胞内に溜め込まれていたヒスタミンという刺激物質が放出されます。
 本来このヒスタミンには,体に進入してきた「異物」を鼻水やくしゃみ,涙とともに体外に追い出そうとする働きがあります。しかし花粉症では,IgE が花粉にも過敏に反応し,その結果マスト細胞がヒスタミンを放出し,その作用で花粉を体外に追い出そうとするため,鼻水やくしゃみ,涙などの花粉症の症状が出てしまうのです。

■スギ花粉の数はどれくらい?

 花粉症の仕組みは分かって頂けたと思いますが,さて,花粉症の原因である,スギ花粉。「今日は、花粉の量が多い1日なるでしょう」とお天気リポーターのお姉さんが言いますが,いったいどのくらいの数が飛んでいるのでしょうか?

 スギは,本州・四国・九州に分布する,高さ30〜40 mの針葉樹です。雌花と雄花を同株に持ち,花は2月から4月に開花します。
 雄花は長さ5〜7 mmで米粒状をしていて,たくさんの鱗片が並んでいます。その鱗片の中には葯が5〜6個あり,さらにその葯の中におよそ3,300個の花粉が入っているとの報告もあります。雄花ひとつを見ると,約40万個!の花粉が詰まっています。

 スギの木1本1本が多くの雄花を持ち,日本中に数え切れないほどのスギが生えていることを考えると,この時期,本当に気の遠くなるような数の花粉が空を飛んでいるわけですね。花粉飛散量の多い日は空が黄色く見える気がする,というのも頷けます。
 スギは,樹齢が20〜30年に達する頃から雄花をたくさんつけるようになり,以後たくさんの花粉を放出するようになります。また,遺伝的な性質により,個体によって付ける雄花の数に違いがあることもわかっています。

■花粉症対策のためのスギの新品種

 いまや国民病ともいわれるほど広がってしまった花粉症。ものすごい量の花粉を生み出す「スギ」からアプローチをかけるべく,スギの新品種がいくつか開発されています。それらには,大きく分けて3つのタイプがあります。

(1)花粉が少ししか作られない!
(2)花粉がまったく作られない!
(3)花粉は作られ飛散するが,アレルゲンを含まない!


 それぞれについてみていきましょう。

(1)花粉が少ししか作られない!
 独立行政法人林木育種センターと都府県が連携して,現在,112品種が開発されています。花粉の少ないスギ品種が作る花粉量は,通常のスギのおよそ1 %以下です。平年では花粉を生産しない,または生産してもごくわずかで,花粉飛散量の多い年でもほとんど花粉を生産しないそうです。

(2)花粉がまったく作られない!
 この“無花粉スギ”は,普通のスギと同様に雄花を付けますが,雄花が成熟する過程で花粉が正常に発達せず,最終的に花粉が生産されないのが特徴です。花粉がないのですから,もちろん飛ぶこともありません。
 全国に先駆けて開発されたのは,富山県林業技術センター林業試験場の「はるよこい」です。その後,独立行政法人林木育種センターにおいても無花粉スギが開発され,こちらは「爽春(そうしゅん)」と名付けられています。

(3)花粉は作られ飛散するが,アレルゲンを含まない!
 花粉症は,花粉中のアレルゲン(アレルギーを引き起こす原因物質)がからだの中の免疫系に認識され,過剰に反応してしまうことで起こります。つまり,花粉症の原因は,花粉そのものではなく,花粉に含まれているアレルゲンなのです。ですので,花粉が作られても,その中のアレルゲンが少ないスギは,花粉症に対して,上述(1)(2)の花粉が少ないまたはまったく作られないスギと同等の効果があるはずです。
 これまでの研究において,花粉中に含まれているアレルゲンの量が,多い品種と少ない品種では約10倍と大きく異なり,付ける雄花の量と同様に遺伝的な性質であることがわかってきました。そこで,花粉が少ないスギとして開発されていたスギの中から,さらにアレルゲン含量の少ない株が選抜されました。そのようにして開発されたのが林木育種センターの「天庵17号」です。

 (1)〜(3)は,いずれも,突然変異等により生じたものが偶然発見,または選抜され,人の手によって増殖されたものです。しかし,最近スギの安定した遺伝子組換え技術や組織培養法も確立され,今後ますますスギの品種改良が開発されていくのではないでしょうか。
 さらに,花粉症対策に効果があり,従来の品種と同様に木材として使えるスギを作るため,新しく開発された花粉対策品種と木材用として優れているスギとの交配もすでに行われています。

■新品種スギが普及すると

 花粉症対策のためのスギ品種の普及は,すでに始まっています。林木育種センターで開発・増殖された新品種スギは都道府県へ配布され,さらに種苗生産者等へ配布,そこで生産された苗木が,里山や都市近郊林に植えられます。林野庁では、これまでに約41万本の花粉対策品種の苗を供給しており,平成28年までに100万本以上の供給を目標にしています。気づかないうちに,近くのスギ林に新品種が混ざって植えられているかもしれませんね。

 国内のスギ人工林の面積はおよそ45,000 haあり,これらの研究による花粉症対策の効果が出るのはまだ先のことになるでしょう。しかし,スギとわたしたちが安心して共生できる日が近づいています。
 花粉症患者のひとりとして,花粉症に悩まない春が来ることを願ってやみません。

<参考文献・HP>
抗体物語(リバネス出版)
独立行政法人林木育種センター:林木育種技術ニュース No. 27(2006)
環境省:花粉症保健指導マニュアル2006(2006)
独立行政法人林木育種センター プレスリリース(2005,2006)
リバネス出版:someone vol. 01(2007)
林野庁ホームページ
富山県林業技術センター林業試験場ホームページ
斎藤洋三,井手武:花粉症の科学(1994)