キュッと冷えたビールが美味しい季節になりました!
きめ細やかな泡、美味しい苦味、キリッとしてのどごし爽やかなビール。
仕事帰りに一杯ひっかけた後に、こんな疑問がわいてきました。
ビールの爽快な苦味は、どうして生まれるのか?
炭酸飲料の泡はすぐに消えてしまうのに、ビールはなぜあんなに濃密な泡が保持されているのだろう?今日はそんなビールの疑問に、お答えします!
■ビールに無くてはならない“ホップ”
ビールの別名「麦酒」からも想像できるように、ビールの主原料には麦芽があげられます。そしてもうひとつ、ビールに無くてはならない存在が
“ホップ”です。ホップは、クワ科(現在はアサ科とも言われています)のつる植物。雄株と雌株があり、ビールの醸造には雌株につく毬花(まりばな/きゅうか)の未受精のものを用います。
ビールの独特の香り・爽やかな苦味・泡立ちを決めるのはホップといっても過言ではありません。
それでは、なんだってホップは苦味や泡立ちの決め手となっているのでしょうか?
それは、毬花のなかに作られる「ルプリン」というなんとも可愛いらしい名前の黄金色の粒が秘密を握っています。
■苦味と泡立ちの決め手“ルプリン”
「ルプリン」は、毬花で作られる、花粉のようにも見える粘性で黄金色をした0.2mm程度の粒。ホップの内部にあるルプリン腺という器官から分泌される、このルプリンこそが、ホップの働きの中枢なのです。
ビールの苦味は、このルプリンに含まれているフムロンとルプロンという物質によります。特に、フムロンは苦味を強く持つ化合物ですが“水には溶けにくい”という性質を持っています。ところが、ビールの製造工程で、麦汁が煮沸される時に、フムロンはイソフムロンという“水にとけやすい性質”をもつ物質に変化して、ビールに苦味を与えてくれるのです。
さらに、ビールの濃密な泡立ちの原因もイソフムロンの働きによります。
ビールには大麦に由来する蛋白質が多く含まれています。その中の起泡蛋白質と呼ばれる蛋白質とイソフムロンが結合することで、ビールに豊かな泡立ちを与え、消えにくい泡の層を造っているのです。
キメ細やかな泡に覆われた生ビールをぐいっと飲むと、エンジェルリングと呼ばれる泡のリングがグラスに残ります。天使の輪とは、何とも粋な呼び名ですね。そして、ビールと泡の間には、一段とキメ細やかな泡の層、スモーキーバブルスが出来ます。これらはルプリンに含まれるイソフムロンの働きによるものだったのです。
■可能性の詰まったホップ
ビール作りには欠かすことのできないホップには、ルプリンのほかにもさまざまな成分が含まれており多様な効果があるといわれています。その中でもビール作りで重要なのは、ホップに含まれる“タンニン”という物質が生み出す強い殺菌・制菌作用です。ホップを加えることで雑菌の繁殖を抑え、安定した醗酵ができ美味しく品質の安定したビールが作られる。実は、おいしいビール作りにも、ホップは一役かっていたのです。
■ホップ裏話、O-157に効く!?
2003年に病原性大腸菌O-157が流行ったことは、記憶に新しいと思います。
このO-157にホップが有効な働きをすることが、2003年の第76回日本細菌学界総会で発表されました。ウサギを使用した実験で、ホップに含まれるポリフェノールがO-157のベロ毒素の産生を抑えたというものです。(O-157は腸管壁から出血する腸管出血性大腸菌と呼ばれ、O-157から産生されるベロ毒素は大変危険な毒素です。)この発表のあと、夏場の食中毒最盛期に、中毒防止のために一生懸命ビールを飲んだ人が多かったそうです!
しかし、実はこの有効成分であるポリフェノールは、一般のビールでは醸造過程で構造が変化してしまい、皆さんが飲むときには、ほとんど効果が無くなってしまうとのことです。現在、有効成分の構造が変化しないような醸造方法も研究されています。将来的には、美味しくて、身を守ってくれる健康的なビールが主流になるかもしれません。
■最後に
ホップは昔から、中枢神経をコントロールする鎮静物質として知られ、不眠や鬱(うつ)に有効なハーブとして活用されてきました。
近年、大手ビールメーカーが薬や健康食品の開発にも力を注いでいることから、ホップの新たな機能解明や利用など、様々な可能性が期待されます。
ホップが泡を形成し、保持する仕組みも、もっといろんなことに利用出来そうですよね!
美味しいだけじゃない、たくさんの秘密が詰まったビール。
生ビールを飲む時、濃密な泡や苦味の中に、ホップやルプリンに思いを巡らせみてください!
(参考)
「醸造学」講談社 野白喜久雄、小崎道雄、好井久雄 編著
「酒の科学」食品の科学シリーズ 吉澤淑編